TKこと河田 剛のUSA情報

« 2011年05月 | メイン | 2011年07月 »

2011年06月

2011年06月30日

この時期のフットボール界

アメリカのフットボール界ではこの時期何が起こっているのでしょう?

 


●COLLEGE FOOTBALL


春シーズン後の4、5月、コーチングスタッフはリクルーティングのために全米を飛び回っていました。6月の前半はその情報の共有や新しい候補選手を見つけるためのオフィスワーク。基本的にはオフィスにいます。6月の後半は「CAMP」です。キャンプといっても、チームのそれではなく、子供や高校生向けのキャンプです。


STANFORDでは、2週間にわたって、下は4歳から上は高校生まで、年齢の低い順にこのキャンプが行われていきます。
・ポジション別(「SPECIALIST CAMP」や「QB ACADEMY」等)
・チームでのキャンプ(数チームが参加して最後はスクリメージまで)
・7 on 7のパッシングトーナメント
2週間、常にどこかで何かが行われていて、私たちもそれはそれは忙しい期間になります。中でも大事なのは、スカラシップ(奨学金)のオファーをするかどうか(こちら側が)悩んでいる学生を呼んで、パフォーマンスを見ることです。NCAAルールでは、個別に高校生のワークアウトや練習を大学側が見ることは禁止されています。ただし、キャンプに参加してきた生徒を見ることはなんの問題もありません。そうです、このキャンプはリクルーティングの一環でもあるんです。


STANFORDは、他のメジャーカレッジに比べ、全米からの入学者が多い学校です。田舎町から出たことがなくて、気づいたら地元のメジャーカレッジのファンだった……みたいなアスリート(もちろん学力は見極めます)を招待して、CALIFORNIAやSTANFORD FOOTBALLを知ってもらう、またとない機会なんです。

 

なので、キャンプ後半になるにつれて(年齢が上がる=リクルーティングの対象)、私たちの目の色も変わってきます。高校生にとっては、特にまだ若い1、2年生にとってはこのキャンプで良いパフォーマンスを見せれば、STANFORDから奨学金をもらうチャンスがあるわけですから、力も入ります。


現に、今年入学してくる、全米でも注目されているWRにそういう選手がいます。南部の田舎町から参加してきた選手で、コーチ陣は誰も知りませんでした。しかし、彼が参加したキャンプのランチタイムに「あのブルーのジャージの〇〇番見たか?」と話題になりました。そして、その2年後、STANFORDから一番にオファーを受けて、STANFORDを選びました。

 

中には、子供ではなく、成人男性や女性を対象とした「FANTASY CAMP」と呼ばれるユニークなキャンプを開催している学校もあります。アメリカには「フットボールは好きだけど、プレイしたのは子供の時だけ」というファンが多数います。そんな人たちを招待して体感させてしまうのがこのキャンプです。おもしろいのは、普段は学生を教えているコーチたちが、その素人たちに本気で、まるで学生を相手にしているかのように指導しているところです。時には、放送できないような言葉も飛び交っているようです。
http://www.pennstatefantasycamp.com/
https://www.youtube.com/watch?v=Ky6t0d5OVuo
https://www.youtube.com/watch?v=TmNmvy36dxo

 

とにかく、カレッジコーチにとってのこの時期はキャンプで忙しい時期なのです。しかし、キャンプと言っても、そのマインドの大半は(いつもと同じように)リクルーティングに注がれます。

 


●NFL


「ロックアウト」がなければ……、(チームにもよりますが)ドラフト終了後、新戦力を対象としたROOKIE CAMPが集中した日程で、週に数回行うOTA(Organized Team Activity)によってチームのビルディングが始まっています。しかし、ご存じのとおり「ロックアウト」(=雇用主側が労働者を職場に入れない)が行われているので、選手がチームのファシリティー(練習施設)に入ることは許されません。

 

ですので、チームで練習ができない選手たちは、プライベートでワークアウトをしているようです。STANFORDでもOBのNFL選手たちをよく見かけます。最近では、中心選手の呼びかけによって自主的に練習をしている選手たちも増えているようです。NFL JAPANのサイトでもESPNでもそんなニュースが増えてきました。

http://www.nfljapan.com/headlines/21929.html

 

かわいそうなのは、NFLを夢見る新人たちです。NFLではドラフトされた選手以外に十数人の選手がROOKIE FREE AGENTとして春の練習に参加します。ドラフトされなかった選手にとってはここがパフォーマンスどころですが、今年はまずその機会さえ与えられていません。ドラフト下位指名の選手にとっても同じです。1位や2位とは違って、キャンプでカットされる可能性の高い選手にとって、「NFLプレイヤーと一緒に練習をして自分を磨く」という絶好のチャンスである春のシーズンがないというのは、大きなダメージでしょう。

 

誰もが望まないこのロックアウト問題、早く解消するといですね。

 

2011年06月27日

TOPICS

カレッジフットボールのトピックスがいくつかありますので、お伝えしましょう。

 

 

JIM TRESSEL Resigned(JIM TRESSELが辞任)


10年間に渡り、名門「The Ohio State University」(オハイオ州立大学)を率いてきたジム・トラッセル氏がヘッドコーチを辞任しました(※余談ですが、ここはなぜか学校名の前に「THE」をつけます。特に卒業生などがつけるようです)。原因は選手が起こした不祥事です。


前回も書きましたが、アメリカのカレッジスポーツではNCAA(National Collegiate Athlete Association)という組織が、「学生スポーツ」であることを逸脱しないように厳しく目を光らせています。映画「BLIND SIDE」(邦題「幸せの隠れ場所」)の最後の方で主役のマイケル・オアーに厳しく質問をしていたのも、NCAAの人たち。彼らはリクルーティングに関するルール違反について調査をしていました。

 

昨年のBOWL GAMEの直前に、OHIO STATEの選手6名が処分されました(2011シーズン開幕から5ゲームの出場停止)。具体的には、地元(当然彼らは地元で大スター)のTATOO SHOP(イレズミを入れるところ)で代金を自分のサインと交換でタダにしたり、チャンピオンリングを売ったり、チームから支給されたグッズにサインして売ったりしたそうです。NCAAルールでは、「STUDENT ATHLETE」(なぜかこう呼びます)が、NCAAが公認した以外の利益を受けることやコストが値引きされたりする行為を禁止しています。NCAAが認めているのは奨学金であったり、練習やトレーニングの際に必要なシューズやウエア、シーズン中の食事等です。

 

それに関しておもしろいエピソードが。私がSTANFORD FOOTBALLで働きだした頃、コピー機の前にこんな内容の張り紙がありました。「STUDENT ATHLETEがここでコピーをとることは、NCAAルール違反です」。要は、生協等のコピースペースで有料でとるべきコピーを、ここでタダで取らせることは何か金品を渡しているのと同じことであるという解釈なんです。ですから、私たちはオフィスに来た学生たちにコピーもとらせられないし、キャンディひとつあげられません。まぁ、キャンディぐらいは勝手に取って行ったりりしますが……。

 

OHIO STATEで処分された6名のうちの一人、エースQBであるTERRELL PRYOR選手がNFL入りを表明しました。元々アーリーエントリーする能力があるQBのうちの一人とされていましたが、(ドラフト前に)一旦は拒否して大学でプレイを続けることに。しかし、5月に二度目の(同じような)スキャンダルが発覚した後、「もう、こんなのめんどくせぇー」と言わんばかりにNFL入りを表明しました。それらの不祥事の責任を取ってヘッドコーチが引退したのですから、なんだかやりきれない感じですね。

 

 

Cliff Harris suspended(Cliff Harrisが出場停止)


OREGON大学のDBの選手が交通違反により逮捕されました。このHARRIS選手、昨シーズンはまだ2年生ながら6つのインターセプト、そしてパントリターナーとしてもスクールレコードのTD数をたたき出す等、中心選手でした。ヘッドコーチから(少なくとも)開幕戦の出場は停止になることが発表されました。OREGONの初戦は強豪LSU(Louisiana State University)であるだけに、影響は少なくなさそうです。

 

 

Nevada starting WR Wimbery shot(ネバダ大のスターティングWR・Wimbery撃たれる)


ネバダ大学の選手が撃たれたそうです。私たちには想像できない銃社会に私は住んでいると、あらためて感じさせられます。

 

2011年06月23日

USC vs NCAA

USC=University of Southern Califonia(南カリフォルニア大学)
言わずと知れた名門中の名門。「NFL予備軍」とも称され、毎年ドラフトへ多くの選手を輩出しています。公立(州立)かと思いきや私立校で、一般的にはお金持ちの子弟が通う学校として知られています。学業も素晴らしい学校です。

 

NCAA=National Collegiate Athlete Association(全米大学体育協会)
英語表記の名の通り、全米のカレッジアスリートのすべてを取り仕切り、つかさどる団体です。日本でよく言われる「文武両道」という言葉ではなく、「学生の本分は勉強である」ということを前面に出した厳しいルールを設定し、それを厳しく運用・管理しています。

 


この両者が戦っています。 詳しくは昨年のブログを読み返してみてください。要約すると、2005年に(USC在学中だった)フットボール選手・レジー・ブッシュがNCAAルールに違反したことへの処分について争っているのです。具体的には、NCAAは以下のような処分を挙げています。
・2年間(2010・2011年度)のBOWL GAME出場資格の取り消し。
・スカラシップ(奨学金)数の削減(段階的に、3年間で30人分/※通常80人まで認められている)。 

 

数日前、USCが昨年から続けてきた不服の訴えをNCAAが最終的に認めず、上記の処分を決定する発表をしました。 よほどのことがない限り、この処分は決定し、いつからか定かではありませんが、上記2番目のリクルーティングにおける罰則が始まることでしょう。

 

カレッジフットボール界に身を置くものとして考えるに、奨学金の数が「30」減るということは……想像を絶する影響が出そうです。無理です。やっていけません。段階的とはいえ、「数年は勝てないけど我慢してね」と言われているようなものです。処分が確定してしまうことを前提とするなら、USC側がとれる対策は以下の2つだと思います。
・回転の早いJC(JUNIOR COLLEGE=短大)からトランスファー(転校)する選手を多く採る。
・今のうちに採れるだけとる!(上限はありますが)
  → (NCAAにアピールはしながらも……、)来る罰則を見すえて、

    今年の新加入選手は31人です。(普通は20人前後)

歴史的にみても、この種のペナルティを受けた学校は、その後、低迷しています。1980年代のSMU(Southern Methodist University/南メソジスト大学)や1990年代のTexas Tech(テキサス工科大学「)は、その後、ボウルゲームに出場するまでに相当の時間とお金を費やしました。どんな対策をとっても厳しいですが、名門の名が失われないようにしてほしいものです。

 

2011年06月01日

アメリカのアスリート

おもしろい記事を見つけました。フロリダ大学のランニングバックのDEMPS選手が陸上の競技会に出場し、100mのスプリントのジュニア・ワールドレコードを出したそうです。

 

その記録はなんと【10秒01】!!

 

一年の大半をフットボールに費やす日々の中で、春のシーズンが終わった後に参加した陸上の大会でのタイムがこれです。日本記録が【10秒00】ですので、アメリカという国にいるアスリートの底力は、並大抵ではないことがうかがい知れます。

 

このブログ上でも何度かお話ししてきましたが、アメリカでは子供のときから(スポーツは)シーズン制(シーズンによって競技するスポーツを選ぶ)であります。もちろん、日本の子供たちがそうであるように、(スポーツを)やらない子もいますが、やっている子はたいてい複数のスポーツをプレイしています。ですから。(同僚の)コーチの子供には「どんなスポーツをしているか?」ではなく「今、何のスポーツしてるの?」と質問するようにしています。


野球が終わればフットボール、その次はバスケットボール……というように、それぞれのシーズンに自分の好きなスポーツを選んで楽しんでいます。日本とは違い、シーズンによって自分の好きな、そして自分に合ったスポーツを選ぶことができるのです。そして年齢を重ねていくにつれて、その競技の数が絞られていって、その中から突出した選手がカレッジスポーツでの奨学金を得るようになるのが、トップアスリートのモデルケースと言えるでしょう。

 

実際、我がSTANFORD FOOTBALLでも数名の選手が野球やバスケットボール、陸上など他のスポーツをプレイしています。中でも、野球をプレイしている選手は高校時代から両方の競技で有名で、昨年は1年生ながら野球部の首位打者になりました。

 

ここ数年、日本の政界でもスポーツに関することが論じられる機会が増えてきたと聞いています。将来、スポーツに関する行政機関等が発足した際には、『複数競技のすゝめ』なる論文でも提出して、日本のスポーツ界の発展に寄与したいものです。

 

ではまた。
TK