2013年05月30日
(冨樫アシスタントGMレポート Vol.5 最終回)
試合結果(デュッセルドルフ パンサーに34-3で快勝)
2013ドイツ遠征特集(バックナンバー記事)
(昨年)2012ドイツ遠征特集(バックナンバー記事)
パールボウルトーナメントの最中に敢行した2度目のドイツ遠征。帰国後の準決勝で富士通フロンティアーズに完敗し、3週末連続試合へのチャレンジは、3年ぶりの黒星を喫して終了しました。
この3連戦を勝って終えられなかったのは、完全に我々の実力が劣っていたから。たかが1回の遠征を挟むことで富士通への対策が不十分になる、自分たちの力を十分に発揮できなくなるということは、個々人の準備、一回一回の練習やミーティングの精度が低いということ。クラブチームである以上、練習時間もミーティングの回数も限られ、個々人に委ねられているミッションも多い。それでも勝ち続けることが、我々がやりたいこと。勝ち続けるチームをつくることが、我々が目指していることです。今回改めて、まだまだ足りないと痛感させられました。もうすぐ6月。行動あるのみ。
●「慣れ」
今回の遠征では、いい意味での「慣れ」を感じました。環境が変わろうが、場所が変わろうが、そこで最大限できることに徹する。スケジュールがきつくても、移動がきつくても、最大限フットボールを楽しむ。3週連続のゲームウイークを前に、昨年はやせ我慢的に「この状況を楽しもう」と思っていたかもしれませんが、今回は純粋に、心底楽しくて仕方ないと感じているように見えました。
現地での様々な違いやアクシデントも、「またか……」と落ち込むより、「やっぱり?」というふうに受け止められました。たとえば、フィールドのヤーデージは、IFAF(アメリカンフットボール国際連盟)ルールに基づく1ヤードよりも若干短く引かれています(※ヨーロッパの球技場はサッカー用に設計してあるため、縦に120ヤード取れない)。前回はコーチ、選手ともに非常にナーバスになりましたが、今回は、アウェーなのだからしょうがないと割り切りれたように思います。また、今回の最大のアクシデントは、バスの配車でした。手配していたバス会社の運転手が自分の大好きなサッカー試合を観に行き、予定よりも1時間半も遅れてきたのです。よくよく話を聞けば、ひいきにしているチームが負けたことでファンが暴れ出し、駐車場から出られなかったとか。しかも、自分のせいで我々を待たせたのに、残業したくないとすぐに帰ってしまう始末。チームの皆さん、本当にごめんなさい。他にも、ゲームクロックが故障し、クロックがないままゲームが始まってしまったり……。本当に信じられませんが、日本では考えられないことが実際に起きてしまうです。でも、鷹揚に構え、対処することができました。
この「慣れ」については、ひとつは、選手が視線の先に何を見ているかが大きく影響していると感じます。私の実感では、日本代表に憧れ、日本代表としてプレーしたいと思っている選手がいま、チーム史上一番多い。この、代表入りへの欲求が、競技力向上の大きな原動力になっているのは間違いありませんし、海外遠征にも前向きに、かつ興味津々に参加させているのだと思います。
他の要因としては、3人の外国人選手の存在も大きいでしょう。DL#11KJ、DL#23BJ、OL#67フランクとのコミュニケーションが、選手たちの外国人アレルギーをなくしているように感じます。さらには、前回の遠征、U-19や日本代表の活動を考慮すると、現在の在籍メンバーの多くが海外遠征を経験したことになります。これが、我がチームにとって、大きな大きな財産となっています。 (右写真は、試合前日に表敬訪問した在デュッセルドルフ日本国総領事館で)
●チームビルディング
パールボウルトーナメント開催中の遠征は、チームビルディングという面から言えば、最高のタイミングでした。この時期に新チームのメンバーが一緒に生活することは、まずありません。通常ならそれが夏の合宿にあたるのですが、こうして3カ月も早く、このような機会を持てたことは貴重です。特に、この春加入したメンバーと寝食をともにし、「こいつはどんな奴で、なんでオービックシーガルズに来たのか」と、入団の経緯など突っ込んだ話ができたことは非常によかったと思います。
なかでも、LS(ロングスナッパー)#39西口選手の加入により、スペシャリストが3人(右写真)になったことが、個人的には非常によかったなと思います。2年前まではK/P#1金親だけ。昨年、K#47丸田が加入。そして今年西口が加入し、やっと「グループ」になれました。
海外での移動や食事では、否が応でも選手同士がコミュニケーションをとらなければなりません。食事に行けば使い慣れない英語で話し、荷物を運ぶときは分担し、先輩が後輩に荷物を押しつけたり気の利く人間が運んだりと、それだけでもいろいろな人間模様が垣間見えます。
●日本人学校での交流
試合前日、デュッセルドルフ日本人学校を訪問し、524名の小中学生と交流しました。トータル2時間。前半の1時間は我々のデモンストレーション交えた壮行会イベント、後半の1時間で中学生を対象にしたフラッグフットボール教室を行いました。校庭に入るや、たくさんの小学生に取り囲まれ、スタッフの私までサインをせがまれました。私の人生でこのようにサインをすることは、恐らく後にも先にもこのときだけでしょう。ジャージやTシャツにまでサインしました。お母様方、本当に申し訳ございません。
壮行会イベントでは、QB#6菅原選手がパス、K#47丸田選手がキックを披露し、KJやフランクと子どもたちが力相撲。一番大人気だったのが、OL#59山本選手が上半身裸になっての筋肉自慢でした。別に何の知識がなくても、あのデモンストレーションを見れば、フットボール選手は強いんだなぁと感じてもらえたと思います。
続いてのフラッグフットボール教室では、4つのグループが各々6チームに分かれて練習とゲームをしました。最初は引っ込み思案だった女の子も、そのうちボールが取れて大喜びしたり、普段はおとなしそうな男の子も、選手に本気で挑んだりしていました。これがスポーツの力なのだと改めて感じました。みんなにフットボールを好きになってくださいとまでは言えませんが、体動かすのは楽しい、ボール遊びもいいものだと思ってもらえれば十分です。楽しい時間をありがとうございました。
●親善試合からチャンピオンシップゲームへ
ご承知の通り、2回のドイツ遠征はいずれも「親善強化試合」でした。対戦相手も、新戦力や新しいシステムを試す場としてとらえていたようにも感じます。スカウティングにも限界があったりと、やはり様々な部分で「チャンピオンシップゲーム」とは違いました。これがたとえば「ヨーロッパチャンピオン対アジアチャンピオン」なら、準備や対戦相手のとらえ方も違っていたでしょう。
我々が次に目指すステージは、「親善強化試合」ではなく「チャンピオンシップゲーム」のように思います。昨年は感じることができなかった、我々の目指すもの、欲しているものが、今回の遠征で比較対象できる2つ目の相手ができたことで、より明確になりました。よりCompetitiveなゲームを、我々は欲しています。たとえば、Euro BowlチャンピオンやGerman Bowl チャンピオンとの戦い。ちょうど、春のこの時期は、Euro Bowlの準決勝、決勝の時期なので、タイミングが合えばかなりいいと思います。あくまでも、たとえば、の話です。実現には、各国との調整やXリーグ、日本協会との調整がかなり困難だということは容易に想像がつきますが(どこにでもお話しに伺います)。
その前に、日本一、ナショナルチャンピオンになって、日本を代表するチームにならなければいけないのは、言うまでもありません。でも、こうやって夢を見ること、夢を語り続けることで動き出すこともあると信じ、これからもいろいろ発信していければと思います。ドイツにできたフットボール友達も、協力してくれるでしょう。 (上写真:Conny Anderson)
●2015年ワールドカップ
少し話が飛躍するかもしれませんが、今回、ヨーロッパのフットボールの成長を強く感じました。今後の日本のフットボール界とヨーロッパのそれを比較したとき、ものすごい危機感も感じます。
これまで過去4回のW杯で、日本はヨーロッパのチームに負けたことはありません。それは、戦術、遂行力、テクニック、スピード、つまりパワーとサイズ以外の全ての面で日本が上回っていたからだと断言できます。しかし、ヨーロッパの成長速度は我々の想像以上です。確実に競技人口が増え、リーグも盛り上がっています。競技力を上げるための環境、仕組みがあります。このまま成長を続ければ、日本を追い抜き、北米のチームを脅かす日が近い未来に来ると確信します。今年もドイツリーグのクラブチーム経験者がNFLのドラフトで指名されています。NFL選手を輩出しているか否かは、日本との決定的な違いです。
その日本はどうでしょうか。2015年W杯が2年後に迫っていますが、まだ一度も代表が召集されていません。それどころか、コーチ、スタッフさえ決まっていません。また、これまでの例で言えば、コーチは各チームから1ないし2名が選出され、自分のチームと代表チームの2足のわらじでの作業になります。アイデア、コンセプトも、チームと代表の2つ、建前と本音が入り混じらざるを得ない環境に置かれます。
他の競技では、代表チームのコーチはリーグや組織の代表であり、個別のチームとの関係はありません。代表が勝つための人材をリーグや組織に要求し、チームの損得と関係ないところで競技力が追求されます。純粋に、世界で勝つことだけに注力できるのです。たとえば、サッカー日本代表のザッケローニ監督はJリーグの監督はしません。女子バレー日本代表の真鍋監督は実業団チームの監督はしません。それと同じす。一部の有能なコーチにおんぶにだっこでは、日本がW杯を勝ち切ることは、もうできません。
●最後に
デュッセルドルフを離れる日、日本人学校で出会った福井由璃花さん、美月ちゃん、太月君が、早朝にも関わらず見送りに来てくれました(左下写真)。我々のビッグファンになってくれて、試合でも大きな声援を送ってくれていました。異国の地で、まだまだドイツでもマイナー競技のフットボールチームをこんなふうに応援してくれて、本当に感激しました。何物にも代えられない、遠征の成果です。
今回の遠征では、アシスタントトレーナーやオペレーションマネージャーには本当に負荷がかかりました。限られたメンバー、限られた時間の中で、次々と起こるハプニングや選手のトリートメントに対処してもらいました。ほぼ3日間、睡眠と食事の時間を削ってあたってくれたからこそ、無事に遠征を終えることができました。本当に感謝します。あんな辛い経験だったにも関わらず、「ますますチームが好きになりました」と言ってくれています。「もっとチームを強くしたい」と私自身、思いを新たにしました。
試合の写真はフォトギャラリーに多数ありますのでご覧ください。