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天職 金親洋介
2009年06月15日
日本を代表するキッカー、 #1金親洋介。キッカーほど孤独なポジションはない。
どんな思いでフィールドに立っているのか? 僕自身、初めてキッカーの気持ちを聞いてみた。
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■課題
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2003年12月、関西、関東の大学2部3部の選抜選手が対戦するバーシティボウル-金親との最初の出会い。リクルーティングのために見にいったこの試合で、たまたま活躍が目に入った。この日を縁に、オービックシーガルズでプレーすることになる。
「2004年1年目は必死だった。大学までは他のポジションと兼務していたので、キッカー“だけ”というのも初めて。とにかく結果を出さなければならないとガムシャラに蹴っていたのを覚えている。リーグ戦はもうひとりの先輩キッカーと交互に蹴っていたが、FINAL6の鹿島戦からは自分ひとりに任された。前半の最後のプレーで40ヤードを
超えるフィールドゴールを決められたのが、自信になった」
それから2006年までの3年間は、チーム内外から一定の評価を得るも、金親自身、「ムラが
あった」と話す。これを決めなければならないという場面では結果を出すが、緊張感のない
場面では外すこともある。100%決めて当たり前のキッカーにムラがあってはならない。
技術的な課題もあるが、メンタルが大きく影響していると彼自身捉えていた。
■成長
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2007年、金親をワン・ステージ上げるきっかけが突然現れる。 ワールドカップ2007
川崎大会の日本代表候補に選抜された。
「自分が代表の候補に選ばれることは想定していなかったので、突然のことだった。でも、
大学時代に山口さん(山口 豊/アサヒビールシルバースター)、小山さん(小山 真/元富士通
フロンティアーズ)のプレーを見て、どうせやるなら上を目指そう、自分も目指せるんじゃないか
と思ったし、社会人でプレーすることを決めたのも、この二人を見て、自分にもできないこと
ではないと思ったから。だから、彼らと同じステージで練習できるこのチャンスにワクワクした。
自分は何も失うものもない。やってやろう!」
その気持ちの持ち方が、いい方向に働いた。自分が最終選考に残ることは厳しいと考えて
いたが、常に「試合の状態」=「集中できる状態」でプレーをし続けた結果、最終選考まで残り、
山口と正キッカーを争うことになる。この時はまさに、自分がなりたい姿に近づいていることを
実感しながらプレーできていたと話す。
「自分の蹴るボールの飛距離、位置、すべてをチェックされる。常に山口さんと比べられる。
そんな中でプレーをし続けた。1本1本が勝負。正直しんどかった。けれど、1本1本の集中力が
自分を成長させてくれた」
その結果、日本代表のキッカーとしてワールドカップを戦うことになる。
■自覚
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オービックシーガルズに戻ると、比較される対象もいなくなり、日本代表というプレッシャーもなくなる。しかし、彼には高いモチベーションがあった。
「事実として、日本代表でプレーしたキッカーということが残った。すると今度は、それなりの成績を残さなければならないと考えるようになった。すべての面で抜けた存在であらねばならないと。キック、パント、フィールドゴールとキックを細分化してみると、自分はまだまだそんな存在ではないことに気づいた。キッカー専任としてプレーしていることに相応しいプレーはできていない。山口さんと一緒にプレーさせてもらって、自分にないことをいろいろ具体的に気づかせてもらった。それを自分のものにするだけでも、もっとうまくなれる。そんな可能性を見出せたのが高いモチベーションを保つことにつながった」
もっとうまくなれると思うと、すべてに前向きに取り組める。チームの練習だけでは気づかなかったことだ。外に出ていろいろなヒントをもらったことで、高いモチベーションで練習に取り組むことができた。
■キッカーというポジション
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金親は「キッカー専任」というポジションにプライドを持つ。
オフェンス、ディフェンスがミーティングをしているとき、ひとり自分と向き合い、自分に必要
だと考えるトレーニングを続ける。そこに正解はない。常に模索している。NFLのキッカーの
フィルムを見たり、山口から学んだことを頭に描き、自分の理想と照らし合わせて、それを
追求する。
「キッカー以外のポジションは絶対にできないと思う。誰かに負けたくないというような
モチベーションが低いと思っているから。それよりは、『なりたい自分』に近づこうと、
『なりたい自分』を追い求めることに集中しているときのモチベーションが高いと思う。
実際、山口さんよりも、と意識して蹴っていたときはいい結果が出なかった」
常に自分と向き合い、自分をマネジメントし、「なりたい自分」を追い求める。その「なりたい
自分」も年々レベルが上がっていくのだろう。オフェンス、ディフェンスのプレーヤーよりも、
彼はひとりでいる時間が多い。他の選手が練習する中、ひとり「なりたい自分」を追い求める。
それを見て、「孤独」と思う人が多いだろうが、彼にとってはむしろ居心地がいいのかもしれない。
金親のようなタイプでなければ、長く続けることはできないかもしれない。自分の可能性を
信じて、自分の成長を実感できなければ、孤独な練習を続けるのは難しい。
同じ時間、同じ場所を共有しているようで、全く違う。
■集中
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「集中」がキックの成功、不成功に大きく影響すると話す。今年、その「集中」にも変化が出てきているという。
「昨年までは、点差が開いていたり、誰かがいいプレーをしたりして、自分が観客になっているときは、集中できていなかった。蹴る動作に入る際に自分がチェックするポイントをいくつか持っているけど、それさえもできていない。自分自身の問題であり、弱い自分を自覚していた。今年はスナップを出す選手、ホルダーが変わった。まだまだ完成度が低く、今までと違う位置にボールが来たりするので、まだ信じ切れていない自分がいる。でも、富士通戦を終えて、タイミングがズレても
いつも通り蹴ろうと決めた。今シーズンはこのメンバーで戦っていくのだから、細かいミスを
気にするよりも、今のスナップ、ホルダーにアジャストできるように、自分がなればいい。
最低限のことだけをお願いして、後は自分がなんとかする。三者が一番いいイメージを持って、
そこに近づける努力をしていくことで完成度は上がっていくと考えている」
最悪の状態を想定して、それに対応できる選手になろうと心がけている。スナップする選手も、
ホルダーは専任ではない。“専任”は自分だけなのだから、自分が合わせて当然だと捉えている。
三者のコミュニケーションも増え、完成度は上がりつつあると話す。金親にとって、メンバーと
一緒に創り上げていくこの過程は、貴重な時間なのかもしれない。
■託されること
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最後の逆転を決めるフィールドゴール。ディフェンスはこの3点のために止め、オフェンスは
この3点のために進める。そして最後、金親のキックに託す。サイドラインは祈ることしか
できない。彼はそんな状況を何回も経験している。そのとき、何を考えてフィールドに立つ
のだろうか?
「『来い』と思って待っている。そのときのために練習してきたし、そのときのために自信を
つくってきた。みんながどれだけしんどい練習をしてきたかも知っている。そんなみんなが
そういう場面をつくってくれると信じている。みんなの思いを背負って蹴るということを考え
たら、ミスはできない。そう考えたら練習から妥協できない。自分がやらなきゃ。そういう
モチベーションも練習中ある。だから、いざその場面がきても、むしろそれを待っていたという
気持ちで迎えられる。いつも通り、練習通りに蹴ることに集中して蹴られる。いつも通り
蹴れば結果はついてくると自信が持てるぐらい、練習ができているから。ここで決めて初めて、
自分はチームに貢献できていると実感できるから、絶対に外せない」
年に多くても2、3回しかこんなシーンはない。ただそれを常にイメージして練習をしている。
そんな姿勢を選手たちは見ているから、「金親なら大丈夫」と託せるのだろう。むしろ、
彼らもそんな場面を楽しんでいるふうに見える。
6年も一緒にプレーしたが、初めてキッカー金親の気持ちを知れた気がする。こいつに勝ちたい-僕のモチベーションはそこにあったが、彼は違うモチベーションでプレーしている。同じアメフト選手でも、こうも異なることに驚いた。でも、根っこは一緒なんだなぁとも感じた。その根っことは、練習が自分を創り、練習通りが立ち返る場所だということ。そして、自分が決めることを信じていることだ。キッカーというポジションを経験している人にしか分からないことも多いと思う。だから、いろいろな人からいろいろなヒントをもらっても、最終的に自分が正しいと思ったことしか加えていかない。話を聞いて、やっぱり金親だなと改めて確信した。 |