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努力の人 宮本 士
2009年07月22日
大学同好会でアメフトを始め、大学2年からオービックシーガルズのクリニックに参加。
トライアウトを受けてオービックシーガルズに入部した#75OL 宮本 士。
今では日本代表に定着するも、これまでの道のりは平坦ではなかった。そんな彼は今、
日本代表チームで何を感じてプレーしているのか。
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■変化の中で
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今年からオフェンスコーディネーターが新生剛士に代わり、迎えた春シーズン。振り返って、宮本は敗戦の責任を自分に向けていた。
「昨年のコーディネーターの大村さんは、どちらかというとトップダウンで決めていくタイプだったが、新生さんは一緒に創っていくコーディネーター。OLは、新生さん、宮田OLコーチ、古谷さん(拓也#20RB)と一緒にランユニットを創っていくという意識のもと、一緒にビデオを見る時間やコミュニケーションを増やし、細かいファンダメンタルを共有しながら進めてきた」
大学時代、チームのプレーを主体的に考えていた彼にとって、このように関われることは、
とても楽しかったという。しかし、春の敗因はこのランプレーが出なかったことだと語る。
「ランが出なかったのは、OLの細かいファンダメンタルが徹底できていなかったから。
毎年同じことに気をつけてはいるものの、今年は新しい選手が入ってきて、コンビネーションや
一人ひとりのファンダメンタルの完成度が低かったと思う。日本代表のRBを抱えながら
ランが出ないのは、OLの責任だ」
彼の考える、完成度の高いOLユニットとはどのようなものなのだろう。
「OLは、ずっと一緒にやっていく中で感覚的なところが一緒になっていく。2002年から
2005年まで、大野さん(現富士通コーチ)、星谷さん(現アサヒ飲料)、矢部さん(OB)と
プレーしたときは、長い時間一緒にプレーすることで、『あ、うん』のタイミングというか、
感覚的な部分がツーカーになっていくのを経験した。OLには、そのユニットの一体感、
感覚の擦り合わせがとても大事だと感じる」
今シーズンは、渡邊(翔#78)、フランク(フェルナンデス#67)の新加入選手、実質、
昨年はプレーできていなかった河村(#68)など、新しいメンバーとの感覚的な部分の
擦り合わせができていなかったことが反省材料だと話す。
秋シーズンに向けては、どう修正していこうと考えているのだろうか。
「新加入選手には、それぞれ今までいたチームのファンダメンタルがある。まずはオービックシーガルズのファンダメンタルに慣れなければならない。しかし、順応するには時間がかかる。彼らの素晴らしい部分は消さずに活かしながら、ユニット力を上げていくことが大切。4年かけて構築したユニット力まで、この1年でもっていかなければならないと考えると、限られた練習時間、練習量だけでは間に合わない。自分が今まで学んできたシーガルズの細かいファンダメンタルをみんなに伝えることを意識している。自分のアウトプットの質が高ければ早く順応できるだろうし、シーガルズのOLの理想のやり方を 共有して、練習の質を上げていけば、実現できると信じている。
そこのリーダーシップは自分の使命。 これからも宮田コーチ、古谷さんとコミュニケーションを
取って創っていく」
■日本代表
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2007年W杯に続き、日本代表に名を連ねた。2007年の代表OL6名がそのまま残り、
コミュニケーションはとても取りやすい環境にあると話す。その中でひとつ大きな変化があった。
「柳さん(富士通オフェンスコーチ)がOLを担当している。自分がシーガルズに入った
当初から指導していただいたコーチで、柳さんの指導が今の自分の礎になっている。
入部当初、本当に下手だった自分に、柳さんはひとつのポジションだけでなく、OLの他の
ポジションもいろいろチャレンジさせてくれた。常に全ポジションのアサイメント、テクニック、
ファンダメンタルを学ばなければならず、必死に覚えた。それがベースにあるから、
今もOLの全ポジションができる。それは気づいたら、ユーティリティプレーヤーとして
他の選手にはない自分の武器になっていて、日本代表で活かせていると思う」
宮本にとって柳さんは恩師であり、日本代表という舞台で、柳さんに自分の成長した姿を
見せたいという強い動機がある。ハードな練習でファンダメンタルを構築することで有名な
柳さんのコーチングを受けている富士通OL(柳チルドレン)とも、分かち合えていると話す。
■日本代表への道のり
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今でこそ日本代表として定着した宮本だが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。ただ、一度も諦めず、常に成長を求め、努力を怠らなかった。実は、そのきっかけと今回のノートルダム大との対戦はつながっていた-。
「同好会の2年生のときから4年まで、オービックシーガルズのクリニックに毎回参加した。同好会では、OLのパート練習といえば1on1のみのような練習だったから、初めてクリニックに参加したときは衝撃だった。そこで学んだことを必死にノートに書き写して復習した。トライアウトを受けて何とか入部できたけれど、1年目はベンチにも入れず、スタンドから試合を見ることしかできなかった。努力してもなかなか認められず、これ以上やっても本当にうまくなれるのか?と自分を信じられない時期もあった。そんなとき、『ルディ』(ノートルダム大アメフト部をモデルにした映画。体が小さく出場機会に恵まれない選手が、諦めずに自分にできることをやり続け、最後試合に出るというストーリー)を何回も見て、『ルディに比べれば自分にはチャンスがある。諦めてはいけない』と自分を奮い立たせるきっかけにしていた。『ルディ』を見て、貪欲にいろいろなポジションを経験したり、トレーニングを継続していく中で、少しずつ周りから取り組み姿勢やプレーを認めてもらえるようになって、今の自分がある。
そういう意味でも、今回対戦できることは、本当に感謝している」
■アメフトを続ける理由
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今年で33歳。“引退”が脳裏をよぎる年齢でもある。そんな彼が、なぜアメフトを続けるのだろうか。
「一番大きいのは、ビッグゲームのドキドキ、日常生活では感じられない、あの雰囲気を感じられることだと思う。だから、この前のパールボウルは楽しかったし、あんなに大勢の観客の前でプレーできることは幸せだ。自分が満足いくプレーができる限り、プレーしたい。もし、満足いくプレーができなくなったときは、引退を考えなければならないと思う。自分の思うようなプレーができなくなったら、それがストレスになると思うし、凄く辛いだろう。自分のプレーができる状態を少しでも長くしたいから、日々できることを継続しているんだと思う」
入部当初から宮本選手を見ているが、彼の1年目をよく覚えている。同好会出身の選手はやっぱり社会人では難しいんだなと。しかし、彼は自らの努力で日本代表まで上り詰めた。誰よりもウエイトトレーニングに励み、ビデオを見て研究をし続けた。決して諦めず、前を向いて歩き続けた。Person of effort-努力の人である。 |