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2009年09月
2009年09月24日
決断 白木周作
RB#36白木周作、8年目。ベテランとしてオフェンスチームを牽引し、その言動から一目置かれる
存在である。今季の彼について、ディフェンスの面々やコーチは「うまくなった」と声をそろえる。
その背景には何があったのだろう。
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■自分の持ち味とは
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「これまでは、いろんなことをやろうとしていた。インサイドもアウトサイドも走らなければならない、スペシャルプレーもやらなければならない、と。でも、今シーズンは杉原(#21)が加わり、不動のエース・たっくん(#20古谷)がいる。その中で、自分の持ち味って何だろうって改めて考えた。単純な速さでは杉原や古川(#23)には敵わない。絶対的な存在感やクイックカットはたっくん。ならば、そこは彼らに任せればいい。自分は、自分にしかできないことだけに絞り、それ以外は捨てると決めてシーズンに入った」
確かに白木には、「器用さ」も「力強さ」も「スピード」も「キャッチ」も、バランスよく持ち合わせた
イメージがある。それゆえに、何にでもうまく対応するものの、「白木といえば×××」という
代名詞が見当たらなかったのかもしれない。
■原点に戻る
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「春の富士通戦で、『1ヤードでも前、1ヤードでも多く走る』という自分の原点を再確認した。そして、そのために必要なことは何だろうと考えた結果、迷いなく思いっきり進むこと-それには体重が必要だと思い至った。70kg台の去年までだと、当たり負けるんじゃないか?という不安が心の隅にあった。だから、スピードはキープしつつ、体重を80kg台に増やして迷いや不安をなくし、フィールドでは思いっきりやるだけという状況をつくった。そうしたら、人と当たったときの感覚が全然違った。当たり負けていない」
もともと、学生時代のポジションはFB(フルバック)で、体重も80kg台だったという。
そのとき大事にしていたことは、当たり負けないこと。社会人8年目にして、
大学時代に大切にしていたことに戻った。
■覚悟
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「クイックカットで1対1の勝負において、自分は10回あったら10回すべては勝てない選手。そこは割り切ることにした。去年まではその局面、局面を考えてしまっていたが、今はこの7年間でファンダメンタルはある程度体に染みついていると信じて、『1ヤードでも前』に立ち返って、迷わず思いっきり当たりにいっている」
RBコーチ兼任でもあり、白木を身近でいちばん見ている#20古谷は、白木をこう評する。
「カットが一歩で切れるようになった。加えて、縦に上がる意識が持てるようになった。それはパート練習でやっていることでもあり、彼は基本に忠実。ファンダメンタルが
しっかりできていることが、フィールドに出ている」
ファンダメンタルが体に染みついているからこそ、迷いなく「1ヤードでも前」に
立ち返れているのだろう。
「『あのとき、ああしとけば良かったな』ということをひとつも残したくない。
今までの自分のアメフトにかける取り組みに関しては、後悔がひとつもない。
だから、もし今、怪我でシーズンを棒に振るようなことがあっても悔いはない。
やることを決めて、思いっきりやる。それだけを続けてきた」
今シーズンに賭ける、彼の覚悟を感じる。プレーにおける力強さだけでなく、
気持ちの強さがそれを後押ししている。迷いはない。
■オフェンスチーム
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「秋はここまで、オフェンスチームはたくさん点が取れて、いい部分が出ていると思うが、試合をフィルムで振り返るときは常に、たとえ1対1で勝っていたとしても、これが電工だったら、鹿島だったら……と思いながら見ている。相手に勝った・負けたより、ちゃんと自分が勝負できているかどうかが大事だ」
彼が入部してからこれまでで、オフェンスはいちばんいいという。
「全体的にフィジカルに強く、いい選手が多い。若いメンバーも活きがいい。このオフェンスで勝てなければ、もう勝てない-そう思っている。今、このメンバーでプレーできていることが楽しい。自分がベテランとか、チームを引っ張るとかは、あまり考えていない。とにかく自分のプレーをするということに集中している。また、コーディネーターが新生さんに代わり、選手とコーチのコミュニケーションで創っていくオフェンスになった。そういうことはしたかったし、自分たちで創るということは、選手にも責任がある。新生さんはコミュニケーションを大切にしてくれるし、ランユニットを見る宮田コーチには、大学でもコーチとして見てもらっていたので信頼できるし、自分の意見をプレーに取り込んでくれる」
「器用」という言葉が、今までの白木には適していたのかもしれない。
しかし、それには彼自身がいちばん違和感を覚えていたようだ。
オービックシーガルズのRB像に合わせていたのかもしれない。
今シーズンは原点に立ち返った結果、迷いがなくなり、彼本来のプレーができている。
そのプレーがチームにも勢いを与える。
白木の「1ヤードでも前」のこだわりに注目してほしい。
勝つためにぶれない「軸」(自分)を持っている、気持ちの強い選手。当たり前のことを当たり前にできる数少ない選手。常に全力で取り組む姿勢は素晴らしく、「白木には負けたくない」と思わせる選手だ。一つひとつの勝負に練習からこだわっているからこそ、試合で結果がついてくる。また練習で彼と勝負できるのが楽しみだ。 |
2009年09月14日
3年目の変化 矢野川 源
この半年、いろいろな選手にインタビューをしてきたが、その際、ディフェンスメンバーからは、
必ず#24DB矢野川 源の名前が出てくる。チームにおける彼の存在感の大きさを象徴している。
3年目の今季、彼にどんな変化があったのか。
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■チャンス
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2009年シーズンが始まったとき、今までとは違う景色が矢野川には見えた。昨年までリーグを代表するFS(フリーセーフティ)だった寺田、里見、金子が引退し、DB(ディフェンスバック)全体が若返る-そんな現実をどう受け止めたのか。
「『チャンスだ』という気持ちが7割、あとは『ヤバイな』という不安な気持ち。自分は試合に出て活躍したいタイプだし、今年この状況で試合に出られないとマズイなと。怪我も治って調子も良かったし、いけるやろという自信もあった」
昨年は怪我の影響もあり、実質、控えに回ることが多かったので、この状況をチャンスと捉えた。
「システムの変化も、大学時代にやっていたものと近く、そんなに大きな変化とは捉えていない。
むしろ、新しいことにチャレンジできることを楽しんでいた。また、古庄さん(#2)が同じDBと
なったので、スタートを取られるという危機感がいい刺激になった」
実際、春シーズンはFSの両翼の一枚として常にフィールドに立ち、
古庄とのコンビネーションはシーガルズディフェンスの新しい武器として脅威を与え続けた。
古庄とのコンビをどう思っていたのか。
「システムの変化はだいぶ形になってきた。古庄さんはFSとしてもガンガン攻めるタイプで、
自分はどちらかというと引くタイプ。このバランスが、チームにとっても自分にとってもいいと
感じている。古庄さんとはとてもやりやすい」
大きな変化に柔軟に対応し、自分の居場所を確立した春シーズン。
フィールド以外での変化も見逃せない。
■リーダーの意識
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今シーズンからディフェンスミーティングを中心に、DL(ディフェンスライン)、LB(ラインバッカー)、DBから各1名がリーダーとなり、ディフェンスメンバーの前で話す機会を設けている。矢野川はDBリーダーとして今までにない立場を与えられた。
「高校も大学もリーダーシップを求められる環境にいたので、元々、シーガルズでもそういうことはやりたいと思っていた。去年までは若干遠慮していて(笑)、フィールドではリーダーシップを出してきたが、メンタルな部分では自分を出し切っていなかった」
プレーでもメンタルの部分でも自分が出せる環境を与えられたことが、プラスに働いた。
その結果、フィールドでもフィールド外でもリーダーとしての信頼を構築することになった。
「大橋さんがよく話す『主体的にチームに関わる』ということが、ディフェンスは特にできている。
ハタケ(DL#94畠山)や橋本(LB#44)などの若い選手がどんどん発信している。
自分を含めた若い3人がチームを引っ張ろうとしていて、それを見た今年入った選手や若手が
流れに乗って、遠慮せずチームに関われている。DBは今、とてもいい雰囲気でプレーできてると思う」
チームはいい状態に見える、と話す。過去3シーズンで最も自分らしさを発揮しているシーズン。
今の心境を聞いてみた。
「チーム内のスタート争いが熾烈。春シーズンは出られなかった選手3人が戻ってきて、
7人で2つのポジションを競っている。前節の試合で自分はプレーに絡めていない中、
堀さん(DB#41)がインターセプトをしたのを見ると、ちょっと焦ったり。
でも、そういう高いレベルでの競い合いが楽しい。まずは信頼を勝ち取って、
常にフィールドにいる選手でありたい。プレーで見せていくしかない」
「春シーズンは自分を出すことで逆に熱くなり過ぎて、失敗したことがいくつかあった。今までは自分のプレー、自分のことだけに集中していたからそんなことはなかったが、チーム、ディフェンスという視点で考えることで余計な力が入ってしまったことも事実。プレーだけでなく、気持ちの部分でも自分を出していくことにまだ慣れていないが、ここがコントロールできたらもっと面白くなると思う」
まだまだ成長過程。気持ちの昂りがプレーに良い影響をもたらし、それを具現化できるようになったとき、また新しい境地に入るだろう。
#24、ディフェンスの最後尾から目が離せない。
3年目の選手とは思えない存在感がすでに確立されている。DBは、シーズンが深まるにつれてチーム内で激しいスタート争いが繰り広げられることになるだろう。そこを乗り越えて試合のフィールドに立ったとき、その自信と責任が、源のプレーをさらに鋭くさせるだろう。決して「引くタイプ」ではない、彼のアグレッシブなプレーが、個人的には楽しみである。 |
2009年09月07日
楽しむ 萩山竜馬
#85WR萩山竜馬は、春シーズンはすべて、カナディアンフットボールなど様々なリーグの
トライアウトに参加してきた。中には、マンツーマンを5回しかやらないトライアウトもあったという。
そんなトライアウトを通じて何を得てきたのか。そして今シーズン、何を思ってプレーするのか。
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■武器
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萩山の武器は、スピード。DBとして今までたくさんのWRと対峙してきたが、彼のスピードは国内トップレベルであることは間違いない。そんな彼が海外のトライアウトで感じたことはどんなことだったのだろうか。
「ショルダーもヘルメットもつけないトライアウトが多い。それなのに、向こうの選手は激しいし、球際も遠慮なく来る。自分と同じくらいのスピードのDBもいて、なかなかスピードで押すことができない。そんなとき、去年からシーガルズで言われてきた『ファンダメンタル』に立ち返り、ここがしっかりできないと勝てないし、DBとのかけ引きをしないと勝てないことが分かってきた。機会も限られていたので、1本1本を大切に、集中力を高められたことも自分にとってプラスになった。そういう部分を意識してできたことがよかった」
スピードだけでは通用しないことを受け入れ、他に何が必要かを考えたとき、
オービックシーガルズで常に言われてきた「ファンダメンタル」に立ち返ったという。
数多くのトライアウトを通じてもがいた結果、自分に足りないものが分かったことが、
萩山にとって意味のあるトライアウトだったのではないだろうか。
■感触と課題
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数多くのトライアウトを受けてきた中で自分と向き合い、試行錯誤を繰り返したに違いない。そのひとつとして、ウエイトトレーニングにも励み、体重を90kg台にしてパワーアップを図っている。90kgという体重で萩山のスピードをキープできるWRは、日本にはなかなかいない。トライアウトでの感触はどうだったのだろう。
「いろいろなレベルの選手70~80人のうち、結果4、5人しか呼ばれないトライアウトもあり、そういうときは飛び抜けていい選手が呼ばれる。自分もそう悪くないと感じているものの、飛び抜けていい部類には入れていない。でかくて速いWRはたくさんいるが、プレーが適当。自分はプレーのタイミングやファンダメンタルにこだわってやっているので、そこは継続しつつ、実践でDBとのかけ引きの幅を増やしていかなければならないと感じている。そういった、意識していることをゲームで自然にできなければ通用しないことは分かっているので、今シーズンはここを課題に取り組んでいる」
ここ数年、萩山の課題でもある「細かいところの徹底」。
この課題の克服と、「かけ引き」=「オリジナリティ」の構築が今シーズンの課題となる。
ファンダメンタルができるとある程度までは通用するが、
さらに高いレベルで自分の色を出すには+αが必要となる。
すでにスピードが萩山の色だとしたら、ファンダメンタルの徹底とかけ引きの多さが、
その色をさらに濃くさせる。
■楽しみたい
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久しぶりにシーガルズに合流した今、何を感じ、何を思ってプレーしているのだろうか。
「久しぶりにショルダーやヘルメットをつけてフットボールするのは面白い。春はシーガルズにいなかったから、どんどん練習中からアピールしていかなければという意識が強い。そうやって自らプレッシャーをかけていくのが、今の自分にはいいと思っている」
「自分が掲げている課題をゲームでクリアできたときに、初めて感情が入ったり、勝負を楽しめるんだと思う。今までは、やらないといけないことを考え過ぎて、ゲームを楽しむという段階まで行けていなかった。今は楽しめている。練習でも、とにかく思い切ってやってみて、それをビデオでチェックして、できているところ、できていないところをしっかり把握して、またやってみる、ということを継続していくしかない」
今、オービックシーガルズで最も危険なWRだ。彼がボールを持つたびに、タッチダウンの可能性を秘めている。彼の成長がオービックオフェンスに及ぼす影響は多大だ。昨年以上に自分から発言することも多く、フットボールを楽しんでいることが見てとれる。一つひとつの課題をクリアにしていく過程がフットボールを楽しむことにつながり、無心でフィールドに立てたとき、本当のハギのすごさが発揮される。ご期待ください。 |