2009年11月
2009年11月20日
PRIDE 塚田昌克
LB#9塚田昌克(まさよし)。2007年の入部以来、ディフェンスの主力メンバーとして
活躍するものの、チームは2年連続でパナソニック電工に負けてシーズンを終えている。
先日、塚田はチーム全員の前で「パナソニック電工にだけは負けたくない」と言い切った。
その背景に何があるのかを聞いてみた。
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■選択
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卒業後の進路を決めるとき、パナソニック電工に勤める先輩からも声をかけてもらっていたという。
「パナソニック電工は実家から近いし、大企業だし、アメリカンフットボールもできる。同じ立命館の先輩もたくさんいて、やりやすい環境が整っている。断る理由がなかった」
しかし、選んだチームはオービックシーガルズで、就職先はオービックだった。
「正直、とても迷った。アメリカンフットボールのことだけを考えたとき、オービックシーガルズは立命館に近い空気でやっているように見えて、ひと言でいうと『楽しんでいる』ように見えた。
プロのコーチもいて選手育成の面でも力を入れているように見え、選手として成長できる
可能性を感じた。LBコーチに時本さんがいて、成長できる環境があると思った。
この点がオービックシーガルズの魅力だった。就職活動を通して出会うことのできた『人』の
魅力も重なり、オービックへ入社してアメリカンフットボールを続けることを望むようになった。
その後、実際に入ってみると戸惑いもなく、すんなり入っていけた」
人生の大きな岐路で塚田が選択したのは、自分らしく、そして成長できるかということだった。
そして、この選択をしたからには、パナソニック電工に負けることは、自身の選択が誤っていた
ことになるのではないか、そう自問自答するようになる。
■3度目の正直
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「過去の2戦、圧倒されているわけではない。紙一重の勝負で負けていることが悔しい。2007年は500ヤード獲られたが、2008年獲られたのは200ヤードちょっとで、獲得ヤードではウチのオフェンスが上回った。差は埋まってきている」
過去の2戦と比べて、今のチームの状態をどう見ているのか。
「ディフェンス的には、シルバースター戦も抑えていたし、悲観視することはない。IBM戦もディフェンスはやはり抑えているし、安定していると思う。去年の今頃と比べると、パナソニック電工に対する各選手の意識も高く、集中できていると思う。逆に、もしこれで負けたら、
どうしたら良いのか分からない。そこまでやり尽くしてきた」
個人的にも、ビデオを見る回数やチームに対する働きかけが去年より増えていると話す。
「『勝ちたい』という気持ちだけだと一生勝てない。『勝つ』と決めて、試合に向けて準備してきた」
■地元
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「オービックの大阪の社員のみなさんも応援に来てくれる。副社長も観戦に来られると聞いている。地元大阪で今まで勝った試合をお見せできていない。今回は何としてでもオービックシーガルズが勝つところを見せたい。この試合に勝つことが、ご支援いただいている会社への恩返しになる」
オービックの社員であり、かつ、オービックシーガルズの選手であるという責任感もあるのだろう。自分の決断が正しかったことを証明するために、そして支えてくれる会社のためにも、次戦は勝つこと以外には考えられない。塚田の執念にご注目いただきたい。
パナソニック電工戦での勝利に対する、異常とも言える執念は塚田だけではない。チームに関わる誰もが、長居で電工に勝つことを信じている。そしてファンの皆様に期待していただいていることも知っている。リーグ最終戦でシルバースターに負けてから今日までの4週間、今までにないくらい、勝つための準備、行動を全員がしてきた。ぜひ、その集大成を、オービックシーガルズの執念をご覧ください。 |
2009年11月17日
自分のオフェンス 松本喬行
3年目にして副将、オフェンスリーダー。さらに今シーズンは、OL(オフェンスライン)だけでなく、
TE(タイトエンド)としても活躍を見せるOL#50松本喬行(たかゆき)(TEでは#87)。
今シーズンの様々な変化を彼はどう受け入れているのか。そしてオフェンスリーダーとして
セカンド・ステージにどう臨むのかを聞いてみた。
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■環境の変化
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「オフェンスリーダーの話をいただいたとき、正直自信がなかった」
まだ3年目。錚々たるメンバーが揃うオフェンスを、リーダーとして牽引するのは恐れ多いと感じたという。しかし、その話を受けてからの行動に迷いはなかった。
「この2年間はおとなしくチームに関わっていた。チームに自分をどう合わせたらいいのか模索しながら、所属している感じだった。本当の自分を出していないというか……。だから、この機会を前向きに受け入れて、回りを気にせず自分の信じたことを行動に移すことにした」
今ではその言動から「将軍」というあだ名がつくようになった。「将軍」と呼ばれる背景には
どんなことがあったのだろうか。
■若手をリーダーに
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松本がまず取り組んだことは、コミュニケーションの活性化だった。
「コーチ主体にならず、選手とコーチのコミュニケーションを増やすことを心がけた。コーチと選手がお互いの意見を出し合ってオフェンスを創っていくこと、そういうオフェンスにしたいとオフェンス全員に話した」
シーズンが始まる前、新生オフェンスコーディネーターと「どうやってオフェンスを変えていこうか」とことん話をし、若手が主体的に関われる環境を整備した。この2年間、松本自身が「受け身」だったからこそ、若手が自分を出せる場を創ったのではないだろうか。
「実際にやったことは、若手を中心にポジションリーダーを指名したこと。しんさん(OL#68河村)を
リーダーにしたら、すごくオフェンスがポジティブになった。しんさんも自覚してくれてたと思う。
しみけんさん(WR#83清水)も自分と同じ認識でチームを牽引してくれて、阿南(WR#26)、
やまちゃん(RB#35山﨑)もリーダーシップを発揮してくれた。拓也さん(RB#20古谷)や
白木さん(RB#36)は何も言わなくても主体的に関わってくれる。春は月に数回、リーダー
ミーティングをして、各ポジションの現状やオフェンスをどうしていこうかを一緒に考えた」
OLの中心人物でもある工藤(OL#74)も、今シーズンのオフェンスは「雰囲気がいい」と言う。
3年目の松本が発信し行動することで、「自分も言っていいんだ」と思えた若手が増えたのでは
ないだろうか。自分の考えや思っていることを発信しやすい場を創ったからこそ、工藤のような
言葉が出るのだろう。
もうひとつ、松本が意識をして取り組んだことがある。「ツイスターズ(OLの愛称)がオフェンスを
引っ張る」と常に言い続けたことだ。
「自分はOLだから、特にツイスターズを中心にオフェンスを創りたくて、言いたくないことも
ツイスターズには言ってきた。ディフェンスに比べてオフェンスは受け身に見られがちなことも
嫌だった。攻撃的なオフェンスを創りたかった」
練習中、ハドルブレークが弱いとき、松本がツイスターズに罵声を浴びせるシーンが何度かあった。
それは松本の強い思いであり、譲れない部分だったのだろう。ツイスターズにあれだけ厳しく言える
人間は、松本以外にいない。ツイスターズの信頼関係が固いからこそ、なしえることだろう。
「今シーズンのオフェンスは、自分のオフェンスだと思っている。中途半端なことをする選手がいたら、
迷いなく殴れる覚悟はできている」
■セカンド・ステージに向けて
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セカンド・ステージについては「特別なことをしようとは考えていない」、そう切り出す。とはいえ、春に自分たちでオフェンスを創っていくと決めてから、まだ結果が出ていない。
「今シーズンのオフェンスのスローガンは『MAX TENPO』。何があってもそこに立ち返る、ということを春の練習からずっと意識してやってきた。自分たちが春から掲げたものを継続して形にできていると実感できるのはこの3年間で初めてで、そこには自信をもっていい。一方、ファースト・ステージで露呈した準備不足や決定力不足の原因は分かっているので、そこを自信に変えることも、この3週間でできたと思っている」
「自分たちのフットボールを楽しくやろうよ」というKJ(DL#11ジャクソン)の話が印象に残っていると話す。
「そういう感覚でプレーできるのが社会人の醍醐味だと思う。自分たちがやってきたことを信じて、
もっともっとレベルアップさせる。自分たちの一番楽しいフットボールをIBM、パナソニック電工に
ぶつける。自分たちのオフェンスをやりきるだけ。それを楽しみたい」
3年目にして初めて自分のオフェンスで勝負する。率いる若き将軍の真価も問われる。
環境が人を変えるというが、マツもその言葉に当てはまるのかもしれない。しかし、大学時代に主将を務めたポテンシャルは誰もが感じていた。マツがリーダーになったことで、オフェンスに新しい風が吹いている。この取り組みが正しかったことを証明するためにも、セカンド・ステージ2試合は負けられない。オフェンスは、そしてオービックシーガルズは、プライドをかけて勝負に挑む。 |